【Case19:るるぶの場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜

マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

関屋 裕希 Yuki Sekiya
1985年1月31日生まれ/福岡県福岡市出身
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com

​2025年5月2日、JTBパブリッシングと謎解き制作団体「よだかのレコード」が共同で、周遊型謎解きブック『謎解き×首都圏おでかけ ミステリーるるぶ』全3種を発売しました。

この新感覚の観光ガイドは、「歴史探訪編」「アドベンチャー編」「大自然満喫編」の3つのテーマで構成されており、目的地が謎に包まれているのが特徴です。

出発前から謎解きが始まり、導かれた先でさらに謎を解きながら街歩きを楽しむという、旅前・旅中の二段構えで没入体験を提供します。

表紙には大きなハテナマークがデザインされ、従来の観光ガイドとは一線を画す仕掛けが施されています。この取り組みは、Z世代など若年層への訴求力が高く、SNSを通じた拡散も期待されています。

「安全なスリル」という魅力

──関屋さん、最近本当に謎解きっていろんなところで見かけますよね。

関屋:はい、ここ数年で特に注目されているエンタメの一つです。なぜこんなに人気かというと、やはり「安全にスリルを味わえる」というのが大きなポイントですね。現実世界で危険を冒さずに、非日常を体験できる。この“非日常感”は、日々の生活に刺激を求めている人にとって非常に魅力的なんです。

謎が解けたとき、脳に快感が走る

──たしかに、解けたときの達成感ってクセになります。

関屋:実際、謎を解いた瞬間には「ドーパミン」という快楽物質が脳内に分泌されます。これは“報酬系”と呼ばれる神経回路が関係していて、「成功体験=快感」として脳が記憶するんです。だから一度味わうと、またその感覚を求めて謎解きをしたくなるんです。

──いわゆる“中毒性”みたいなものですか?

関屋: 近いですね。ただ、それが悪いわけではなく、自己成長や楽しみの一つとして活用できる範囲であれば、非常に健全です。

人を夢中にさせる「フロー体験」

関屋:もうひとつ、謎解きが人を惹きつける理由として「フロー」という心理状態があります。「ちょっと頑張ればできる」課題に集中しているときに起こる没入状態です。時間を忘れて取り組んでしまう、あの感覚です。

「フロー」について

「フロー」とは、心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念で、人が何かに完全に没頭しているときに感じる集中状態のことを指します。この状態では、目の前の課題に深く入り込み、時間の感覚さえも忘れてしまうほど高い集中力を発揮します。

──謎解きって、まさにその「ちょっと頑張れば解ける」絶妙なラインをついてきますよね。

関屋:そうです。難しすぎるとやる気をなくすし、簡単すぎても飽きてしまう。その“程よさ”が、うまく設計されていると人はどんどんのめり込んでいくんです。

脱出成功がもたらす「自己肯定感」

──リアル脱出ゲームだと、脱出に成功した瞬間の満足感ってすごいですよね。

関屋:あれは“自己肯定感”の向上につながっています。「自分はできる」というポジティブな感覚は、日常生活にも良い影響を与えるんですよ。特にチームで成功したときには、協力や信頼といった社会的報酬も得られる。だから、企業の研修などにも謎解きが使われることがあるんです。

SNSで広がる“成功体験”

──解けたことをSNSにシェアしている人も多いですよね。

関屋:そうですね。謎が解けたことはポジティブな体験なので、誰かに伝えたくなる。成功体験の共有は、他者からの承認も得られやすく、それがまた自己肯定感を高めます。しかも、「自分も解いてみたい」と周囲の人に興味を持たせる“バズ効果”もある。謎解きは、コンテンツとして非常に拡散性が高いんです。

まとめ

謎解きコンテンツが流行している背景には、「安全なスリル」「快感報酬」「没入感」「自己肯定感の向上」「好奇心の刺激」「シェアしたくなる衝動」といった、さまざまな心理効果が組み込まれています。

エンタメとしてはもちろん、マーケティングツールとしても非常に優秀な仕組みですね。今後もさまざまな場面での活用が期待されます。

関屋さん、本日もありがとうございました!

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