【Case29:株式会社ジャパネットたかたの場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜
マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

関屋 裕希 Yuki Sekiya
1985年1月31日生まれ/福岡県福岡市出身
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com
2025年10月21日から公開された、ジャパネットたかたの年に一度の大型キャンペーン「第27回 ジャパネット利益還元祭」新CMについてご紹介します。
CMには、国民的アーティスト・さだまさしさんとムード歌謡グループ・純烈が出演。巨大化したさださんが、歌詞をド忘れして焦る純烈・白川さんをフォローするというユーモラスな展開で話題を呼びました。実際の“歌詞忘れエピソード”をもとにしたリアルさと、巨大化した家電などのコミカルな演出が組み合わさり、「感謝を大きさで伝える」温かい広告に仕上がっています。

ネット最強時代でも勝てる理由は「選ぶ負担を減らす」こと
──関屋さん、まずジャパネットって“ネット全盛の時代でも強い”印象がありますよね。
関屋:ありますよね。Amazonや楽天みたいに選択肢が無限にある中で、ジャパネットは“選択肢を絞ってくれる”という強みがあるんです。
たとえばエアコンなら「これ!」掃除機なら「これ!」と、すでに最適な選択が用意されている。人は選択肢が多いほど迷って疲れるので、こうした“選ばなくていい設計”はとても心理的に楽なんです。
60〜80代に刺さる、“情報が頭に入ってくる構成”
──テレビショッピングの中心ターゲットは60〜80代と言われていますよね。
関屋:そうなんです。高齢の方にとって、ネットで情報を集めたり比較したりするのって意外と大変なんです。カタログも字が細かくて読むだけで疲れてしまう。
その点、ジャパネットは
・必要な情報だけを整理して伝える
・実際に使っている様子を見せる
・サイズ感が一目でわかる
この3つをとても丁寧にやっています。
特に家電って「大きさ」や「使い勝手」が文章や写真だけだとわかりにくいですが、テレビで実演されると「これなら自分でも使える」とイメージしやすい。
“わかりやすさ”がテレビならではの強さですよね。
「ただ見ているだけで楽しい」──視聴行動を味方にする
関屋:あとは単純に見ていて楽しいんですよね。テンポの良さや説明の分かりやすさ、演者のキャラクター。見ていて飽きない構成で作られている。
ネットだと「買う気がないと検索しない」ですが、テレビはなんとなくつけてるだけで情報が入ってくる。この“受動的に見られる強み”をうまく活かしていて、気づけば商品が欲しくなっている。
ジャパネットはここが本当に上手いと思います。
「いいものを安く」の安心感が信頼を積み上げる
──ジャパネットは“シンプルなセレクト”と“価格の納得感”が強いですよね。
関屋:そうですね。「いいものを、わかりやすく、安く」ここが何十年もブレていないから信頼されている。
ネットだと「本当に安いの?」「どれが正解?」と迷いますが、ジャパネットは“もう比較しなくていい状態”をつくってくれる。
心理的にはこれがすごく楽で、安心感が購買につながっています。
まとめ:ネットに勝つのは“情報のシンプルさ”と“わかりやすさ”
ジャパネットたかたの強さは
・選ぶ手間を減らす
・使う姿を具体的に想像させる
・テレビという受動メディアを活かす
・安心して任せられる“セレクト感”
これらが丁寧に積み上がっているところにありました。
Amazonや楽天のような巨大ECとは違い、“迷わせない設計”で勝負しているのがジャパネット流。CMのコミカルさの裏側にも、「わかりやすさ」「親しみやすさ」というしっかりした心理設計が隠れています。
──関屋さん、本日もありがとうございました!