ナレッジ・ノウハウ 著者:blogle編集部

競合分析の実例|顧客が選ぶ理由から「誰に何を売るか」を決める

競合分析の実例|顧客が選ぶ理由から「誰に何を売るか」を決める

写真を送れて、チャットができて、報告書もつくれる。現場向けの業務ツールを機能で比べると、似た説明が並びます。ところが導入した会社の話を読むと、選ぶときに重く見ていた条件は同じではありません。

日特建設のdirect導入事例では、元請け企業がすでに使っていることが選定理由の一つでした。一方、宇徳のKANNA導入事例では、従来のExcel帳票を活かせることが決め手に挙がっています。前者は一緒に使う相手、後者は変えずに残したい仕事の形が重要だったわけです。[日特建設の事例] [宇徳の事例]

この違いは、売る側にとっても大きい。写真共有を売るのか、取引先との連絡を売るのか、それとも帰社後に残る報告書づくりの解消を売るのか。見せる導入事例も、営業で最初に聞くことも変わります。

この記事は、競合比較表をつくったものの「結局、誰に何を売るのか」が決まらない、中小企業の経営者・事業責任者・マーケティング担当者に向けたものです。ブログルが競合調査を行う目的も、会社に順位をつけることではなく、顧客の選び方から自社の売り方を決めることにあります。

現場報告ツールの公開事例を使って、比較対象の広げ方、顧客条件による市場の分け方、訴求を変える判断まで実際に進めます。結論を先に言えば、似た機能がある市場では、「何ができるか」だけでなく「顧客が何を変えられないか」を調べると、狙う相手と提案の入口が具体的になります。

まず、誰の何を判断するための調査かを決める

今回は「現場で撮った写真を使い、発注者へ報告書を提出する仕事」に絞ります。工程管理や原価管理まで一度に比較すると、機能表は大きくなっても、報告作業についての判断がぼやけるためです。

調査に入る前に、買い手の条件を次のように置きました。以下は比較のための仮定であり、ブログルの顧客事例や調査結果ではありません。

買い手の条件 今回置く前提
会社・担当者 複数の工事を並行する設備工事会社。現場責任者が報告書をつくり、業務責任者が改善費用を判断する。
今ある仕組み 写真はスマートフォンとチャットで届く。提出先ごとにExcel帳票があり、写真の並べ替え・転記・確認が残っている。
変えたいこと 写真を送る速さではなく、報告書を提出できる状態にするまでの手間と差し戻しを減らしたい。
変えにくいこと 取引先の指定帳票や利用ツールを、自社の都合だけでは変更できない。現場に入力を増やす余裕も限られる。

この前提なら、調べるべき問いは「人気の施工管理アプリはどれか」ではありません。今ある連絡手段と提出先の条件を保ちながら、報告書が完成するところまで進められるかです。買い手の状況を一文にすると、調査から外してよい機能も見えてきます。

三つの公開事例を読むと、機能表では見えない選定条件が出てくる

比較には、direct、KANNA、ANDPADの公式情報と、各社が公開する顧客事例を使いました。写真・報告業務への対応が確認でき、導入前の状況を追えるため選んだ例です。市場全体を代表する標本でも、同じ顧客がこの3製品を比較した記録でもありません。

direct:元請けが使っていることが、導入する理由になる

日特建設の事例には、離れた複数現場との連絡を電話やSMSで個別に行っていた状況が書かれています。directを選んだ理由は、元請け企業で利用が広がっていたことと、現場での試用を通じて使いやすさを確認できたこと。同じ記事には、写真報告書ボットを使う運用も紹介されています。掲載内容は2023年5月時点です。[出典:L is B・日特建設導入事例]

ここからブログルが読み取るのは、機能が足りていても、連絡相手に新しいツールを使ってもらう負担が大きければ選ばれにくい、という仮説です。新しい機能を足す前に、「誰を一緒に移行させる必要があるか」を聞く価値があります。

KANNA:帳票を変えないことが、仕事を変える条件になる

宇徳の事例では、現場写真を取り込み、加工して報告書へ貼り付ける仕事が負担になっていました。チャットボット型の日報アプリなども検討したうえで、既存のExcel帳票を活かし、スマートフォンやタブレットから入力・提出できるKANNAレポートを選んでいます。案件管理のKANNAプロジェクトも併用しています。[出典:アルダグラム・宇徳導入事例]

この場合、従来の帳票は単なる古い道具ではありません。報告を受け取る側との約束でもあります。売り手が「Excelをやめましょう」と言うより、「提出先が必要とする形式は残し、作成の手間を変えましょう」と説明した方が、検討の前提に合う可能性があります。

ANDPAD:デジタル化した後にも、写真の加工と転記が残る

日神工業は、すでにスマートフォンやGoogle Workspaceを利用していました。それでも、写真をPCへ移し、形式を変換してExcelへ貼り付ける作業が残っていたと紹介されています。ANDPAD導入の背景にあったのは、端末がないことではなく、写真管理と報告作業の負担でした。[出典:ANDPAD ONE・日神工業導入事例]

「まだデジタル化していない会社」だけを営業対象にすると、こうした困り方を見落とします。ツールを導入済みでも、工程のつなぎ目で手作業が残る会社はある。少なくともこの事例は、その確認から調査を始める理由になります。

ただし、いずれも提供会社が掲載した顧客事例です。選ばれた事例に偏る可能性があり、導入しなかった会社の理由までは分かりません。企業規模も今回仮定した買い手と同一ではありません。選定条件を発見する材料として読み、中小企業にも同じ需要があるかは別に確かめます。

市場地図は「会社の種類」ではなく「仕事が詰まる場所」で分ける

調べた内容を、買い手の仕事に沿って並べ直すと次のようになります。製品を一つの枠に閉じ込める分類ではありません。同じ製品が複数の工程を扱うため、候補は重複します。

仕事が詰まる場所 公開情報から残る選択肢 買い手が確かめる条件
相手へ写真・連絡が届かない 既存の電話・チャットの運用改善。directなど、社外関係者との連絡を扱う仕組み。 元請け・協力会社は何を使っているか。相手にも新しいアカウントや操作を求めるか。
届いた写真が、提出用の報告書にならない Excel帳票や現行ツールの設定見直し。KANNAレポート、directの写真報告書ボット、ANDPADの写真管理・写真台帳機能。 実際の提出帳票を再現できるか。写真の並び・説明・承認まで含めて、転記がどこに残るか。
報告書以外に、案件ごとの情報管理も分散している KANNAプロジェクトやANDPADなど、案件単位で写真・情報を扱う仕組み。現行システムの統合・運用整理も比較対象。 今回どこまで変える必要があるか。移行、教育、二重入力の負担を含めても見合うか。

機能の確認先:direct・建設業向け機能KANNA・写真台帳/報告書作成KANNAレポートとプロジェクトの併用事例ANDPAD・写真管理。名称が似ていても、標準機能・別製品・追加機能の範囲は同一ではありません。契約範囲と費用は個別確認が必要です。

今回の仮定では、中心になるのは2行目でした。写真は届いているので、共有機能を増やすだけでは問題が残ります。まず現物の帳票を使い、今ある仕組みで完成まで進められるかを確かめる。そのうえで不足する機能や支援を比べる順番です。

そして2行目にも、すでに複数の選択肢があります。ここを「競合のいない市場」と呼ぶ根拠はありません。写真共有を報告書作成と言い換えるだけでも、差別化にはならないことが分かります。

売る側は、この地図から何を変えるのか

ここからは、現場報告業務の改善支援を商品にしたい会社を仮定します。その会社には、既存ツールの設定、帳票の整理、現場への定着支援を行う能力があるものとします。特定企業への戦略提言や、ブログルが実施した支援実績ではありません。

この売り手が「建設業のDXを支援します」「写真共有を効率化します」とだけ伝えると、何を頼む相手なのかが広すぎます。調査後の営業方針は、少なくとも次のように絞れます。

決めること この調査から置く方針 まだ確かめること
先に話を聞く顧客 写真共有はできているが、提出先ごとの帳票づくりに手作業が残る会社。現場担当者だけでなく、改善費用を判断する責任者にも聞く。 負担が繰り返し生じているか。責任者に改善の優先度と予算があるか。
提案の入口 新ツールの紹介ではなく、直近の報告書1件を使った作成工程の点検。今の帳票・取引先との接点を保てる範囲から探る。 既存機能の設定だけで解決しないか。独自の支援が必要な工程はどこか。
比較される相手 報告機能を持つ製品、販売元の導入支援、社内でのExcel改善、現状維持。新しいSaaSだけを競合と見なさない。 すでに受けられる支援や契約がないか。それを超えて外部へ頼む理由があるか。
営業で見せる証拠 機能数ではなく、同じ帳票を完成させるまでの操作・転記・確認の比較。導入後に現場の入力が増えないかも見せる。 提出先に受理されるか。教育や確認まで含めても負担が減るか。

たとえば最初の訴求は、次のように置けます。これは検証前のコピー案で、効果を確認した広告表現ではありません。

「写真は届いているのに、報告書づくりが終わらない。今の帳票と連絡手段を前提に、どこに転記が残るかを一緒に確認します。」

「DX支援」より狭い言い方です。その代わり、自分の困りごとかどうかを読み手が判断できます。逆に、写真共有そのものが整っていない会社や、原価管理まで一括で見直したい会社には、この入口が最適とは限りません。狙わない条件も同時に決まります。

ただし、このコピーだけで勝てるわけではありません。既存製品やその導入支援で十分なら、独立した改善支援を買う理由は弱い。複数の仕組みをまたぐ転記や、顧客固有の運用に未解決の負担が残り、それを解く能力が自社にある場合に、初めて提案を深めます。

その意味では、既存ツールの提供者は競合にも協業先候補にもなります。製品を売り直すのではなく、導入後に残る業務整理を補う関係を探せるからです。ただし、協業制度や役割分担を確認するまでは候補にとどまり、提携可能と断定はできません。

公開情報から先は、直近の報告書1件で確かめる

ここまでで得たのは、「報告作業が残る会社に、既存環境を活かす改善支援を提案する」という検証可能な仮説です。市場規模や受注の見込みが証明されたわけではありません。

自社で試すなら、最初は条件に合いそうな5社程度に、直近の報告書が完成するまでを聞きます。5社は市場比率を推定する標本数ではなく、仮説の外れ方を早く知るための小さな着手単位です。顧客名や現場写真を共有してもらう必要はなく、機密を伏せた帳票と手順で進められます。

質問・確認 判断への使い方
最後の1件で、誰が何を受け取り、どこへ転記し、誰が差し戻したか。 「大変」という感想で止めず、変えるべき工程と当事者を特定する。
帳票のどの項目が提出先指定で、どこは自社で変えられるか。 守るべき条件と、整理できる慣習を分ける。
今の契約に報告機能や導入支援は含まれているか。試していない理由は何か。 追加購入が必要なのか、設定・教育・運用の問題なのかを分ける。
1件当たりの作成・確認時間と発生件数は。誰が改善費用を決めるか。 負担と投資判断がつながるかを見る。困っている人と買う人を混同しない。

次に、対象を1種類の帳票へ絞って、小さく試します。同じような報告業務について、作成者の時間だけでなく、確認者の手間、差し戻し、提出先での受理まで比較します。写真枚数や帳票難度が違う案件をそのまま比べず、初期設定・教育の負担は通常作業と分けて残します。

続ける条件は、現在の仕組みを整えるだけでは消えない負担があり、試行で減らせて、顧客が費用に見合うと判断すること。既存機能で解決したり、外部へ頼むほどの負担でなかったりすれば、この商品仮説は見直します。売れそうな話を補強するためでなく、売るべきでない条件を知るためにも調べる。そこまで含めて競合分析です。

聞き取った発言をそのまま施策にせず、背景と判断へつなぐ整理方法は、顧客の声を経営に活かす方法でも扱っています。

自社で調べるときは、会社一覧より先にこの一文を埋める

今回の調査は、次の一文へまとめられます。

写真は共有できているのに提出帳票への転記が残る会社へ、既存機能で足りない工程を確かめたうえで、今の取引先・帳票を活かす改善を提案する。

別の市場でも、「誰が、何を済ませたいのに、どの条件のために今の方法を変えられないか」を先に置きます。候補製品の機能説明だけでなく、導入理由と、導入前に使っていた手段を読む。会社一覧はその入口であって、答えではありません。

今回、日特建設では連絡相手、宇徳では既存帳票、日神工業ではデジタル化後に残った手作業が比較の手掛かりになりました。そこから、狙う顧客を「建設業全般」から具体的な業務条件へ絞り、訴求を「共有機能」から「報告が完成するまでの負担」へ変え、既存機能で足りるかを最初に確かめる方針まで進めました。

ブログルへ競合調査やマーケティングを相談いただく際も、比較したい会社名だけでなく、「どの顧客に、何を売る判断で迷っているか」をお聞かせください。すでにある比較表や営業資料を出発点に、どこまで公開情報で分かり、何を顧客へ聞く必要があるかを整理します。競合分析・マーケティングについて相談する

調査範囲と補足資料

公式ページの確認日は2026年9月7日です。顧客事例の記載時点は現在とは異なり、製品仕様・契約・運用が変わっている可能性があります。本記事はブログルによる公開情報の比較・考察であり、製品の実機検証、顧客への独自取材、導入成果の第三者検証は行っていません。

調査の入口として、2026年8月末のJPX銘柄一覧から、東証グロース・内国株式・情報通信業・2024年1月1日以降上場という条件で48社を抽出しました。その中のL is Bが扱う現場の連絡・報告業務を起点に、同じ仕事を扱うKANNAとANDPADへ調査を広げました。これら2製品を48社の集計に加えたわけではありません。

この上場条件は資料を追える探索範囲を決めるもので、顧客の選択肢を区切るものではありません。未上場企業や別業種の企業も競合になり得ます。48社の社数や編集上の分類から、市場全体の需要、競争の強さ、参入余地は判断しません。

調査の入口に使った48社と一次資料を開く

母集団の確認先:日本取引所グループ・東証上場銘柄一覧。会社名のリンクは事業確認に使用した各社の一次資料です。「主な提供価値」は当該資料をもとにした編集部の要約であり、全事業・全機能を示すものではありません。

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VRAIN Solution 2024/02/22 製造業向けAIシステムとDXコンサルティング
Cocolive 2024/02/28 住宅・不動産会社向け顧客管理SaaS「KASIKA」
L is B 2024/03/26 現場向けビジネスチャットと業務DXサービス
ソラコム 2024/03/26 グローバルIoTプラットフォーム「SORACOM」
ハッチ・ワーク 2024/03/26 月極駐車場の管理クラウドと検索・マッチング
シンカ 2024/03/27 顧客との通話や連絡履歴を統合する「カイクラ」
カウリス 2024/03/28 金融犯罪・不正アクセス対策サービス
情報戦略テクノロジー 2024/03/28 大手企業向けDX内製支援
ハンモック 2024/04/11 IT資産管理・営業支援・OCR等の業務ソフト
Will Smart 2024/04/16 交通・物流分野のDXシステムと自社プラットフォーム
学びエイド 2024/05/28 学習塾・学校向け映像授業サービス
PostPrime 2024/06/20 金融情報SNSとM&A仲介プラットフォーム
オプロ 2024/08/21 帳票・販売管理を中心とするクラウドサービス
ROXX 2024/09/25 ノンデスクワーカー向け正社員転職プラットフォーム
グロースエクスパートナーズ 2024/09/26 大企業のデジタルサービス開発・組織変革支援
キッズスター 2024/09/26 子ども向け社会体験アプリと企業向けデジタル施策
Hmcomm 2024/10/28 音声認識・異音検知を使ったAIソリューション
Sapeet 2024/10/29 身体・行動データを扱う専門領域向けAI
インフォメティス 2024/12/09 電力データ分析とエネルギーマネジメント
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