【Case44:ディップ株式会社の場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜
マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

PROFILE
関屋 裕希Yuki Sekiya
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com
今回は、ディップ株式会社の「バ先であった〇〇な話大募集キャンペーン」を取り上げます。Case42で紹介した事例を、同じ対談から「投稿する人と、できあがった動画を見る人は同じなのか」という観点で掘り下げます。

ディップの公式発表によると、募集期間は2026年8月10日から8月31日まで。アルバイト先での恋愛、友情、顧客との交流、妄想の4部門からエピソードを募り、優秀作品をショートドラマにする企画でした。募集は終了しています。
連動する『バ先の先輩がメロすぎる』は、バイト先の魅力的な人物に会いに行く場面を、一人称視点で描くシリーズです。投稿を募ることと、その話を映像で届けること。この二つを分けて見ると、企画の読み方も変わってきます。
対談は2026年8月17日。発言の趣旨を変えずに抜粋・整理しています。企業の狙いや受け止め方についての発言は、公式発表ではなく対談での考察です。
投稿を募る相手と、映像を届けたい相手は同じなのか
──バイトのエピソードを集めて、ショートドラマにする。まずは、誰に参加してほしい企画なのかが気になりますね。
関屋:すでにバイトしてくれてる人たちに、うちの会社にもっとエンゲージしてね、ということもあるんですかね。
──募集に応じられるのは、バイト経験のある人が中心ですよね。一方、その体験を見ることで「バイトしてみたい」と感じる人もいそうです。
関屋:いずれその動画ができあがった暁には、新しい人たちも取り入れたいんだろうけど、この時点では、ターゲットはすでにバイト中、もしくはバイト経験のある人な気がします。
〈編集部〉参加型の企画でも、参加者と、コンテンツを届ける相手が重なるとは限りません。体験を提供する人がいて、その話を見て自分の将来を想像する人がいる。企画書に「Z世代向け」とだけ書くより、段階ごとに誰に何をしてほしいかを分けたほうが、募集する話と映像の見せ方を考えやすくなります。
時給や勤務地の外側に、どんな価値を見せるか
──求人の条件ではなく、バイト先で起きた話を見せることには、どんな意味がありそうですか。
関屋:バイトって、お金のため以外の価値もあるんだよ、ということもあるんですかね。基本、求人だと時給いくらとか、勤務地を選べますとか、外的な条件を伝えたくなりそうだけど、これはバイトしていると恋愛でいいことがあります、友達ができます、という話ですよね。
関屋:アルバイトの価値を多様化しているところが面白いのかもしれないですね。普通の求人情報とは違って、「自分もこんな経験ができるかもしれない」と感じるものになっている。
〈編集部〉条件と体験は、どちらか一方を選ぶものではありません。給与や仕事内容を正確に知らせる情報と、その場所で過ごす時間を想像する情報。それぞれの役割があります。体験談を使うときも、「誰にでも起こること」のように約束せず、実体験と創作・妄想を読み手が区別できる形で扱いたいところです。
流行の見せ方が、届けたい人にも合っているか
──対談ではショートドラマも見ました。一人称のカメラに向かって相手が話しかけてくる、見る側がその場にいるような形式です。
関屋:これはZ世代に受ける動画なの?
──若い人に届きそうな形式に見えても、実際に見ている人の視点を確かめたいですね。対談では、見た動画に女性の出演者が多いことも話題になりました。
関屋:女子ばっかですね、確かに。しかも基本、メロい感じ。じゃあこれは、流行っている、受ける動画のテンプレートみたいな感じなのか。
〈編集部〉ここで立ち止まりたいのは、「若い世代向け」という括りと、実際の映像が誘う視点には違いがあることです。誰の立場で、その場面を楽しむ動画なのか。流行している形式を借りるときにも、自社が届けたい相手とのつながりは別に考える必要があります。
この対談で見た動画だけから、視聴者の性別構成や、企画全体のターゲットを断定することはできません。出演者の印象を、そのまま視聴者データに置き換えない。そのうえで、企画時には「投稿してくれる人」「動画を楽しむ人」「サービスを使ってほしい人」を並べ、同じ人物像を想定してよいかを確かめる。自社で取り入れるなら、そこから始めたいと思います。
まとめ
同じキャンペーンでも、投稿を集める場面と、できあがった動画を届ける場面では、相手も役割も変わります。募集数が多かったことだけで、届けたい人へ届いたとは言えません。反対に、動画が見られていても、募集したい体験を持つ人が参加しているとは限りません。
今回の対談から残ったのは、「誰向けの企画か」を一度決めて終わらせず、参加から視聴、その先の利用まで、相手を具体的に考えるという視点でした。流行の形式を採用する前に、その形式の中で誰がどんな気持ちになれるのか。企画の見せ方を考える、小さな手がかりになります。
──関屋さん、本日もありがとうございました!
事例の概要・募集期間・動画形式の出典:ディップ株式会社、2026年8月4日発表。応募数、視聴者属性、応募・採用への効果は本稿では検証していません。
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