導入事例の削減時間、その数字を見出しにする前に
「月26時間削減」。導入事例の見出しにしたくなる、分かりやすい数字です。ただ、その26時間は誰の、どの作業を足したものでしょうか。
事例原稿を編集するときは、大きな成果数値の中へ一度戻ってみたい。対象の仕事と計算の単位が分かると、読み手も自社の状況に置き換えて考えられます。
この記事では、企業が公開した二つの発表を、数字の作られ方までたどり直しました。1件の短縮時間と月の処理件数を掛け直し、年間換算の注記も読む。そこで見えてきた、見出しから落としたくない説明を紹介します。
月26時間の中に、どの仕事が入っているか
複数の仕事を足した削減時間は、内訳ごとに確かめます。一つの処理が速くなった効果と、関わる人たち全体の合計が、同じ数字とは限らないためです。
LayerXが2026年10月14日に公開したTOMAコンサルタンツグループの導入発表には、月26.2時間という合計に加え、経理・承認作業で20.8時間、申請・情報システム業務で5.4時間という内訳があります。前者は、約1,250件の処理で、1件の承認が約3分から約2分になったという説明です。
この記述をもとに計算すると、1件当たり約1分、月約1,250件で約1,250分。60で割ると約20.8時間になります。残る5.4時間は、別の作業の削減分です。
もし原稿の途中で「承認が1分短くなり、月26時間削減」とつなげたらどうでしょう。どちらも元の発表に登場する数字ですが、そのつなぎ方では、1分の短縮だけで合計全体を説明したように読めてしまいます。
この発表の読みどころは、数字が大きいことに加えて、読み手が計算をたどれることにあります。自社の処理件数が分かれば、まずは同じ作業があるかを確かめられる。逆に、処理件数も仕事の範囲も違うなら、月の合計をそのまま自社の見込みへ移すことはできません。
ここで確かめたのは、公表された説明と計算の対応です。ブログルが作業ログや計時方法まで監査したわけではありません。計算がつながることと、その製品だけが変化を生んだと証明することも、分けておきます。
年間換算と、1年間で確認した実績は分ける
1回当たりの削減時間に年間の発生回数を掛ければ、年間の削減見込みを出せます。記事に載せるときは、その数字が試算だと分かる言葉を残します。
日経BPコンサルティングが2026年5月22日に公開したグループ内の生成AI活用調査では、社員60人から集めた230件の事例をもとに、年間約5,800時間の削減余地を試算しています。導入前後の時間差に年間発生回数を掛けた数字で、元となる時間は回答者の自己申告です。
「年間約5,800時間を削減」とだけ抜き出すと、1年分の作業記録を集計した実績にも見えます。「年間換算で約5,800時間の削減余地」とすれば、数字の作られ方が残る。同じ数値でも、読み手が受け取る確かさは変わります。
同じ調査の平均約70%という短縮率も、全社員の全業務が対象ではありません。効率化できた業務を中心に集め、事例ごとの短縮率を単純平均した値だと注記されています。
たとえば、短い作業と長い作業の短縮率を一つずつ平均しても、合計の労働時間が何%減ったかとは別の計算になります。この違いは、平均値だけを目立たせると消えてしまいます。
試算や自己申告だから載せられない、ということではありません。導入を検討する段階では、どの仕事で時間が減りそうかを考える材料になります。その用途が分かるように書けばよいのです。
数字の隣に、読み手が比べられる単位を残す
成果数値を受け取ったら、合計の前にある作業へ戻る。事例制作では、その一手を入れると説明が具体的になります。
取材先から「月の合計しか分からない」と言われた場合、原稿の都合で内訳を作るわけにはいきません。対象となった仕事の名前や担当者、数えた期間は確認できるか。計時した値なのか、担当者が振り返って見積もった値なのか。確認できた範囲を、数字の近くへ書き添えます。
本文に条件を書く場所がなければ、見出しに対象業務を明記する手もあります。「全社で業務時間を削減」と広げず、確かめた業務名を入れる。年間換算なら「試算」を残す。見出しだけを見た人にも、何が分かった事例かが伝わります。
元の資料に書かれていないことを、「測っていない」と決めつける必要はありません。記事では省略しただけかもしれない。制作担当者が追加で聞くべき箇所として扱い、推測で空欄を埋めないことです。取材前に確認先を揃える段階は、導入事例インタビューの準備でも扱っています。
自社の事例原稿を開いて、一番大きく載せた数字を一つ見てみる。その数が、何の合計なのか。読者が本文だけで答えられなければ、数字を言い換える前に、足し合わせた仕事の説明を戻したいと思います。
導入事例や営業資料で、成果の根拠と伝え方をどう組み立てるか迷うときは、ブログルへご相談ください。
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