【Case27:たこ焼き菜々の場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜

マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

関屋 裕希 Yuki Sekiya
1985年1月31日生まれ/福岡県福岡市出身
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com

2025年9月20日からスタートした、北海道・函館のたこ焼き店「たこ焼き菜々」による“値上げしない挑戦”プロジェクト「たこ焼きトレーディングカード」についてご紹介します。

物価高騰が続く中、価格を上げるのではなく“楽しさで価値を上げる”という逆転の発想で生まれたこの企画。ファミコン風のピクセルアートでデザインされたカードは、必殺技やステータス付きでコレクション性抜群。店頭版と通販版の2シリーズで展開し、特製シールやレアカードなども用意されています。

「食べればなくなるたこ焼きだからこそ、思い出に残る形を作りたい」という店主の想いから始まった本プロジェクトは、小さな3坪の店舗が発信する“体験型ブランディング”として全国から注目を集めています。

値上げしない、という選択に見える“柔軟な発想”

──関屋さん、まずこの「値上げしない」っていう決断、ちょっと意外ですよね。

関屋:そうですね。今って多くの飲食店が「値上げは仕方ない」という空気の中にいますよね。そんな中で“値上げしない”というのは、単なるこだわりというよりも「柔軟な対応力」の表れだと思います。

工夫の方向がポジティブなんです。上げないために我慢するのではなく、上げないために新しい楽しみを作る。その柔軟さと前向きさが、この企画全体の明るい印象につながっていると思います。

“好き”を突き詰めるからこそ、深く刺さる

──「たこ焼き×トレカ」ってかなり意外な組み合わせですよね。

関屋:ですよね。でも、この店主の方の“好き”が根底にあるのがポイントです。

おそらくアイドルマスターの「安部菜々」など、アニメやゲームカルチャーへの愛着から着想してるんだと思います。

やっぱり、自分が楽しいと思えることって、人にも伝わるんですよ。「ウケを狙おう」とか「バズらせよう」じゃなくて、“好きだからやってる”という素直さがある。その純粋さが、見る人の心を動かしているんだと思います。

“オタク心”をくすぐるデザインの心理効果

──ファミコン風ピクセルアートというのも、かなりオタク層に刺さってますよね。

関屋:そうなんです。昔のゲーム風デザインには、“ノスタルジー”と“コレクション欲”の両方を刺激する効果があります。しかも、オタクカルチャーに馴染みのある層って「限定」「レア」「集めたい」という心理的トリガーがすごく効くと思います。

今回のように、地域の小さな店舗がその文脈を理解してプロモーションに落とし込むって、すごく上手いと思います。気をてらってるわけじゃなくて、ちゃんと“自分の好き”を使って新しい価値を作っているんですね。

手堅く、でも確実にファンを増やしていく

関屋:このお店、いきなり大量にカードを作ってるわけじゃないんですよね。まずは店頭で反応を見て、それが好評なら次を考える。そういう“慎重なチャレンジ”の仕方も素晴らしいです。

一気に大きく仕掛けるより、ちゃんとお客さんの反応を確かめながら動く。そうやって丁寧に続けていくことで、ファンが自然と増えていくんです。地に足がついた挑戦というか、堅実さと遊び心のバランスがすごく上手ですよね。

まとめ:好きの熱量は、人を動かす

たこ焼き菜々の「トレーディングカード企画」は、ローカル店舗の枠を超えて、“好き”から生まれるマーケティングの力を見せてくれた事例でした。値上げをしないという選択も、好きを形にする柔軟な発想も、結果的に多くの人の共感を呼んでいます。

好きだから深く追求できる。
楽しんでいる人のエネルギーは、確実に人の心に届く──。
そんな心理が、函館の小さなたこ焼き店から全国へと広がっているのかもしれません。

──関屋さん、本日もありがとうございました!

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