【Case30:株式会社MEETSHOPの場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜
マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

関屋 裕希 Yuki Sekiya
1985年1月31日生まれ/福岡県福岡市出身
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com
2025年10月30日より、株式会社MEETSHOP、作家の岩井圭也氏、そして京阪電気鉄道が共同で始めた体験型プロジェクト「ただいま、けいはん」についてご紹介します。

この取り組みは、小説×ヘルスケア×脳科学という三層構造を掲げ、京阪沿線を舞台にした書き下ろし作品や、街歩きによる感情の可視化イベントを通じて「心の余白」に目を向けることを目的としています。特設サイトでは、感情測定アプリ「KOKOROスケール」を活用した実験的な体験が公開され、読者や参加者自身の“心の変化”をその場で体験できる構成となっています。
このように、多分野がコラボレーションし「本を読む」「街を歩く」「体の内側を感じる」という3つの行動を通じて、ヘルスケアのきっかけを創出するプロモーションは、次世代ブランディングのひとつの方向として非常に注目されています。
聖地巡礼ブームを“心の健康”に変換するアイデア
──関屋さん、このプロジェクトって広告っぽくないですよね。
関屋:そうなんです。最近アニメでも小説でも聖地巡礼がすごく流行っていますよね。「作品の世界に触れたい」という気持ちは、行動を促す強いきっかけになる。
MEETSHOPはその文化をうまく活かして「じゃあ小説の舞台を歩いてみよう」と提案しているんです。ただのPRじゃなくて「作品を介して心の動きを感じてもらう」という、新しい価値をつけているところが面白いです。
本だけ渡されても読まない時代に、“体験”で巻き込む
──確かにいきなり「本を読め」と言われても読まないですよね…。
関屋:そうなんです。今は“小説離れ”も進んでいて、読むこと自体のハードルが上がっています。でも今回のプロジェクトは、読む前に「街歩き」や「気持ちの変化を見てみる」という体験を用意している。
体験の中で自然と作品の世界に引き込まれて、気づけば小説そのものにも興味が湧いてくる。押しつけじゃなくて、楽しんでいるうちに巻き込まれていく。ここがとても現代的な設計だと思います。
デジタルデトックスになる“読書×街歩き”の組み合わせ
関屋:街歩きと読書って、どちらもスマホから離れられる行動なんです。
目の前の景色を見たり、文章に集中したり、身体を動かしたり…。マルチタスクにならない行動は、脳が休まりやすいんですね。
もちろん「やったらすぐ成果が出る」みたいなものではないけど、じわじわと心に効いてくるタイプのヘルスケア。MEETSHOPはその価値を“体験イベント”として可視化したのが上手いなと思いました。
企業のPRではなく、大事だと思うことに共感した人同士のプロジェクト
──企業の宣伝色が薄いのも印象に残りました。
関屋:そうですよね。普通は「企業名を知ってもらいたい」「PRのためのイベントをする」という発想になりがち。
でも今回は「心の余白って大事だよね」「自分の気持ちを知ることって健康につながるよね」という価値観に共感した人たちがタッグを組んでいる。
だから広告っぽさがなく、すごく自然なんです。やらされてる感がないから、参加する側も心地よく受け取れる。これが今の時代にフィットしている理由ですね。
まとめ:直接的に売らない時代の、新しい広告のかたち
MEETSHOPが仕掛けた「ただいま、けいはん」は、
・聖地巡礼のワクワク
・街歩きのデジタルデトックス
・読書による感情の深まり
これらを掛け合わせて、広告ではなく“体験”としてブランド価値を伝える取り組みでした。
直接「買ってください」ではなく、
「一緒に面白がりませんか?」
という誘い方だからこそ、人が自然と巻き込まれていく──。
まさに、これからの広告のヒントとなる事例でした。
──関屋さん、本日もありがとうございました!