『脳科学マーケティング100の心理技術』|説明を読むだけで、面倒に見えていないか?
「心理学」「脳科学」関連の書籍を読んで、blogle編集部が感じたことをお伝えしていくコーナーです。
運動の内容は同じなのに、説明文の書体が違うと、かかりそうな時間の見積もりが変わる。今回の本で立ち止まったのは、そんな研究を紹介する短い節でした。
申込案内やサービスの説明を作る側は、「必要なことは全部書いた」と考えがちです。でも、読む相手には、その説明を解きほぐす仕事が一つ増えているのかもしれません。説明を読むだけで、面倒に見えていないか? この問いから読んでみます。
【『脳科学マーケティング100の心理技術 ― 顧客の購買欲求を生み出す脳と心の科学』著者:ロジャー・ドゥーリー/ダイレクト出版、2013年】

本書は、価格や接客、広告、ウェブサイトなどの工夫を100項目で紹介する本です。研究の解説から実務への提案まで幅広いため、すべてを「効果が証明された方法」として受け取るのは慎重でありたいところ。この記事では、121〜123頁の「シンプルな書体を使う」に絞ります。
相手に始めてもらいたいなら、行動を促す言葉を強める前に、説明を読み解く負担を減らしたい。ただし、読みやすく見せることと、実際の手間を小さく見せかけることは別だということです。
同じ説明でも、面倒さの受け取り方が違う
本書で紹介されるのは、同じ運動の説明を、読みやすい書体と読みにくい書体で示す比較です。読みにくい説明を読んだ人のほうが、運動に長い時間がかかりそうだと見積もったとされています。
ここで変わったのは運動の内容ではありません。説明を読むときの感覚が、これからする作業の印象にまで重なっている。著者は、情報を処理し理解することのしやすさという観点から、この違いを説明しています。
仕事の案内でも、手順は少ないのに、細かい文字が続き、条件や注意事項が一つの段落に詰まっていることがあります。必要なものは何か、最初にどこを押すのか、いつ返事が来るのか。読み手は、その順番を自分で組み直さなければなりません。
もちろん、本書の比較は欧文の書体を使った研究の紹介です。日本語ならどの字体が一番よいか、自社の申し込みがどれだけ増えるかまでは分かりません。また、見積もった時間は、実際に作業を終えるまでにかかった時間とは別です。
それでも、案内を作る側に戻ってくる問いがあります。相手に「面倒だ」と思われたとき、それは手続きの中身だけが理由なのか。こちらの伝え方で、余分な面倒を足していないか。
読むために必要な手間と、実際に動くために必要な手間。まずは、この二つを分けて見てみたいのです。
読みやすさを、都合の悪い情報を隠す口実にしない
この節の終わりで著者は、フォームに記入してもらう場面にも触れています。書体だけでなく、説明を短く、言葉や構成をシンプルにするという提案です。
ただ、「短くする」と言われると、書く項目を減らすことへ急ぎたくなります。申込条件を注釈に追いやったり、準備が必要な書類を後から知らせたりすれば、最初の画面だけはすっきりするでしょう。でも、始めた人の手間が減ったわけではありません。
たとえば申込前に社内確認が必要なら、そのことは先に分かったほうが助かります。「すぐ終わります」と誘われてから確認事項に気づくより、今は準備だけして後で申し込むという選択ができます。
本書には多くの販売上の工夫が並びますが、ここから持ち帰りたいのは、相手をうまく乗せる技術ではありません。必要な情報を見つけるまでに払わせている手間を、こちらで少し引き受けるという姿勢です。
簡単そうに見せるより、何をするのかが見通せること。そのほうが、始めるかどうかを相手自身が決められます。
「簡単に申し込めます」を、相手の手順にほどく
ここからは編集部による応用案です。架空の工場見学で、取引先へ次のように案内する場面を考えます。
見学のお申し込みは簡単です。必要事項を入力のうえ送信してください。なお、安全管理上、参加者氏名と所属の事前登録が必要です。お申し込み後、担当者より日程確認のご連絡をいたします。
大きく間違った文章には見えません。ただ、代表者がまとめて申し込む場合、参加者全員の氏名が今すぐ必要なのか、送信すれば日程が確定するのかを読み取る必要があります。ここに「わずか数分」と足しても、迷いは残ります。
この例では、参加者全員の氏名と所属を先に揃える必要があり、申し込み後に日程を調整する運用だとします。必要な準備を省略なく示し、相手が動く順番に整理するなら、こう書けます。
お申し込み前に
参加される方全員の氏名・所属と、見学の希望日をお手元にご用意ください。
フォームでお送りいただくもの
代表者の連絡先、参加者情報、見学の希望日をご入力ください。
送信後の流れ
担当者から日程調整のご連絡をします。フォーム送信時点では、見学日はまだ確定しません。
見出しを増やしたので、文字数はむしろ多くなっています。それでも「何を揃える」「何を送る」「その後どうなる」を探し分けられます。短くしたかどうかだけでは、案内の良し悪しは決められないのです。
実際の運用が、代表者だけで仮申し込みを受け付ける仕組みなら、案内も変わります。分かりやすい文例に現場を合わせるのではなく、本当に必要な準備と順序から書く。その確認が先にあります。
読めたかと、始められるかを別々に聞く
案内を整えたら、「分かりやすくなりましたか」だけで終えず、対象に近い人に、最初に何を用意するかを説明してもらうとよさそうです。こちらが補足する前に聞くことで、書いたつもりで伝わっていなかったところが見えます。
続けて、今この案内を受け取ったら、そのまま申し込めるかを聞きます。「何をすればいいかは分かるけれど、参加者が決まっていない」という返事なら、問題は文字の読みやすさだけではありません。仮申し込みを認めるか、参加者情報を後から受け取れるかなど、受付の運用を検討する話になります。
反対に、日程が確定したと誤解されるなら、説明の順番や強調の仕方を直す余地があります。同じ「申し込まれない」でも、直す場所は違います。少人数の確認で申込率の改善まで証明できるわけではありませんが、どこを直すべきかの手がかりにはなります。
読みやすい説明は、相手の仕事を消してくれるものではありません。ただ、何をすればよいかを解きほぐす仕事まで、相手に任せずに済みます。案内の見た目を整えるとき、その先で動く人の準備まで一緒に思い浮かべられるとよさそうです。
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