ナレッジ・ノウハウ 著者:blogle編集部

トーンオブボイスの揃え方|歓迎も依頼も、同じ調子でいい?

トーンオブボイスの揃え方|歓迎も依頼も、同じ調子でいい?

「あと少しです!入力漏れを直して、もう一度チャレンジしてください!」

見積もりを頼んだ会社から、こんなメールが届いたらどうでしょう。明るい文章ではあります。でも、どこが足りなかったのかは分かりません。仕事の依頼をしただけなのに、試験に落ちたようにも読めます。

これは説明のためにつくった例です。「親しみやすい会社にしたい」という方針を、そのまま陽気な言葉づかいに置き換えると、こうしたずれが起こり得ます。WebサイトやSNSはもちろん、案内や依頼を書く担当者にも、同じことが言えます。

会社の言葉を揃えるとき、歓迎も依頼もお詫びも、同じ調子にする必要はありません。揃えたいのは顧客に向き合う態度です。その違いを、同じ会社が送る2通のメールで考えてみます。

「親しみやすい」を、語尾の指定で終わらせない

企業の言葉づかいを考える際に使われるのが、トーンオブボイスという考え方です。ここでは、変わらない会社の声を「ボイス」、場面に応じた調子を「トーン」と分けて考えます。

メール配信サービスのMailchimpも、公開している文章ガイドでこの区別をしています。声は一貫させながら、読み手の状態によって調子を変える。面白さよりも明確さを優先し、無理に冗談を入れないという方針です。

ただし、この区別を覚えても、「うちらしく直して」の曖昧さは残ります。たとえば「親しみやすい」を「感嘆符を使う」と決めれば、最初のメールも合格してしまいます。

そこで今回は、法人向けの業務ソフトを提供する架空の会社を想定します。この会社が大切にする態度は、「相手を迷わせず、分からないことをそのまま相談できるようにする」。利用を始める人にも、まだ見積条件が固まっていない人にも、この態度を変えないことにします。

歓迎するときは、楽しさを押しつけず、最初の一歩を案内する

最初は、試用を申し込んだ人への利用開始メールです。以下の文面とサービス仕様は、編集部が比較のために作成した仮例です。実在する企業の配信文や、効果を測定した事例ではありません。

編集前:明るいけれど、何から始めればよいか分からない

件名:ようこそ!さっそく始めましょう!

ご登録ありがとうございます!
さっそく全部の設定を済ませて、毎日の仕事をもっと楽しくしましょう。
分からないことがあれば、お気軽にお問い合わせください!

歓迎する気持ちは残したいところです。ただ、「全部の設定」では始める負担が大きく見えます。「仕事を楽しく」と言われても、目の前の作業を終わらせたい人には、気持ちまで合わせる必要はありません。

編集後:歓迎の言葉に、始め方と相談先を添える

件名:試用のお申し込みありがとうございます|最初の設定のご案内

試用にお申し込みいただき、ありがとうございます。
まずは管理画面の「会社情報」を登録すると、サンプルデータで操作を試せます。

実際の業務にどう使えるか迷ったときは、試したい作業をこのメールへご返信ください。設定する前のご相談も受け付けています。

変えたのは、感嘆符の数だけではありません。着手する箇所を一つに絞り、「何について相談してよいか」まで書きました。挨拶は削らず、相手が使いこなせることも前提にしていません。

もちろん、サンプルデータで試せる機能と、このメールへの返信を受ける窓口があることが前提です。窓口が別なら、実際の相談先に直します。言葉を整えるために、存在しないサポートを足してはいけません。

情報をもう一度お願いするときは、明るさより「何が必要か」

同じ会社が、今度は見積依頼を受けたとします。利用予定人数が書かれていなかったため、確認が必要になりました。冒頭の「もう一度チャレンジしてください」は、この場面を想定した文章です。

ここで相手が必要としているのは、励ましよりも、何を伝えれば見積もりが進むのかという説明でしょう。そもそも入力漏れとは限りません。人数が決まっていないのか、フォームの説明が分かりにくかったのか、この文面からは判断できません。

編集後:不足を指摘する代わりに、確認したいことを伝える

件名:お見積もりに向けた利用予定人数の確認

お見積もりをご依頼いただき、ありがとうございます。
ご案内するプランを検討するため、利用予定人数を確認させてください。

人数は、このメールへの返信でお知らせいただけます。まだ確定していなければ、おおよその人数で構いません。人数が未定の場合も、その旨をお知らせください。必要な条件を整理するところからご相談を承ります。

「入力漏れ」を「利用予定人数の確認」に変えたのは、やわらかい言葉に逃げるためではありません。原因を相手に決めつけず、いま必要な情報を特定するためです。「もう一度」も外しました。フォーム全体を再入力してもらうのか、人数だけ返信してもらえばよいのかでは、相手の負担が違います。

ここには歓迎メールほどの明るさはありません。それでも、「分からないことをそのまま相談できる」という態度は共通しています。同じ会社らしさは、同じ言い回しを繰り返さなくても残せます。

なお、この例は概数でもプランを検討でき、人数未定の相談も受けられる運用を想定しています。確定人数がなければ進められない会社なら、その条件と理由を伝える方が誠実です。「構いません」と書くだけでは、実際の対応範囲は広がりません。

次の担当者には、完成文だけでなく「変えた理由」を渡す

担当者が複数いるなら、2通の完成文を共有して終わりにしない方がよさそうです。理由がなければ、歓迎メールの調子が、次のお詫び文にもコピーされかねません。

この仮例なら、編集メモは次の程度で足ります。

  • 歓迎の案内:感謝は残す。楽しさへの同意は求めず、最初にできることと相談先を伝える。
  • 情報の再確認:相手の不注意と決めつけない。必要な項目、必要な理由、返答方法を具体的にする。

不具合のお知らせなら、また別の編集が必要です。「もうすぐ直ります」と安心させる前に、その見通しを本当に確認できているか。分かっていることと確認中のことを分ける方が、この会社の態度には合います。文章の印象より先に、約束できる事実を確かめる場面です。

自社で試すなら、いま使っている歓迎の案内と、言いづらいことを伝える文章を1本ずつ並べてみてください。どちらも明るくするのではなく、どちらの相手にも守りたい態度は何かを話し合う。そのうえで実際に直し、直した理由を短く残します。

「です・ますを統一する」だけでは決められないところに、会社の姿勢が出ます。親しみやすさを、陽気さではなく相談のしやすさとして書く。この会社なら、そんな言葉の揃え方ができます。

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