『急に売れ始めるにはワケがある』|詳しい人と、広める人は同じなのか?
「心理学」「脳科学」関連の書籍を読んで、blogle編集部が感じたことをお伝えしていくコーナーです。
商品に詳しい人から「これはいいですね」と言ってもらえた。でも、そこから先に話が広がらない。口コミを期待していたら、少し拍子抜けする場面かもしれません。
その人の評価が社交辞令だった、とは限りません。良さを見つけることと、別の誰かに届けることを、こちらが一緒に期待していた可能性もあります。詳しい人と、広める人は同じなのでしょうか。
今回の一冊は、マルコム・グラッドウェル著、高橋啓訳『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(ソフトバンク文庫、2007年)。原題は『The Tipping Point』です。話題になる現象を扱った本ですが、今回は「誰が、どこへ伝えるのか」という読み筋で紹介します。

商品をよく知ることと、違う人たちの間をつなぐことは、重なる場合もありますが、別の役割です。紹介を増やしたいなら、「影響力のある人」をひとまとめに探すより、誰に何を頼もうとしているのかを分けてみたい、ということです。
良さを見つける人と、橋を架ける人
本書の第2章に登場する「メイヴン」と「コネクター」。どちらも情報の広がりに関わりますが、著者が見ている働きは異なります。
メイヴンは、物事をよく調べ、比較し、その知識を誰かに教えることを好む人です。安ければ何でも勧めるのではなく、どこが違い、何を選ぶとよいかを知っている。周囲に「それなら、あの人に聞こう」と思い浮かぶ人がいれば、この説明は身近に感じられそうです。
一方のコネクターは、異なる人の集まりをつなぐ人。仕事仲間だけでなく、趣味や地域など、別々の輪に接点を持っています。自分たちの仲間内では十分に知られた話でも、その輪の外には届いていない。そんな境目を越える働きに、著者は注目します。
本ではさらに、人を納得させる力を持つ「セールスマン」も描かれます。ただ、この三つを性格診断にしてしまうのは惜しい気がします。料理に詳しい人が、仕事では別の業界をつなぐ役割を担うこともあるでしょう。肩書きではなく、今の話題について何が起きているかを見るための区別として読めます。
ここで印象に残るのは、「詳しければ、たくさんの人に広めてくれるはず」とは置いていないことです。深く検討してくれる人に、広い紹介先まで持っていてほしいと期待したら、相手の得意な働きが見えなくなってしまいます。
「いいものだ」と見極める働きと、「あの人にも関係がありそうだ」とつなぐ働きを、分けて眺めてみる。その違いだけでも、頼み方は変わります。
誰に伝えるかだけで、広がりは決まらない
有力な紹介者が見つかれば解決、という話でもありません。本書は人の役割だけでなく、記憶に残るメッセージを扱う「粘りの要素」、行動が起こる状況を扱う「背景の力」を並べています。
第3章では子ども向け番組などを題材に、ただ目を引くことと、内容が理解され、残ることを掘り下げます。話を運ぶ人がいても、何がよいのか説明しづらかったり、受け取った人が自分に関係する話だと思えなかったりすれば、その先は続きにくそうです。
人、伝える内容、受け取る状況。この三つを行き来する読み方に、本書の面白さがあります。紹介者だけを替え続けるのではなく、相手が伝え直せる材料になっているか、今その話を聞く理由があるかにも目を向けられるからです。
もっとも、本に出てくる印象的な逸話から、自社でも同じ結果が出るとは言えません。原著は2000年刊。現在のSNSでは、知人関係だけでなく推薦表示なども情報の届き方に関わります。人の類型を当てはめればヒットを予測できる、と読むより、見落としていた問いを増やす本として受け取りたいところです。
「誰に頼めば売れるか」の答えを探すより、人・内容・状況のどこで話が止まるかを考える。そのほうが、目の前の仕事へ持ち帰れます。
「誰かに広めてください」を、二つの依頼に分ける
たとえば、小さな食品メーカーが、新しい瓶詰め調味料の取扱店を探しているとします。以下は考え方を説明するための仮の例で、実際の支援事例ではありません。
日頃から付き合いのある料理人に試食してもらい、好意的な感想をもらった。ここで「ぜひ周りにも広めてください」と頼むと、誰に、どんな用途で紹介するのかを、相手に丸ごと考えてもらうことになります。
料理人にまず相談したいのは、商品を理解する手助けかもしれません。たとえば、こんな聞き方です。
どんな料理や使い方なら、この調味料の良さが分かりやすいと思いますか。逆に、合わない使い方も教えていただけると助かります。
ここで得たいのは推薦文ではなく、使いどころと限界です。答えを広告に使う場合は別に許諾を取り、試食の感想をそのまま公的な推薦のように扱わない。まず商品を説明する材料を整えます。
そのうえで、地域の食料品店に接点のある知人へ、別の相談をすることが考えられます。
常温の調味料を扱うお店で、新しい仕入先の提案を受け付けているところをご存じでしょうか。もし思い当たれば、商品概要を先方へお渡しいただいてよいか、ご相談したいです。該当がなければ、そのままで大丈夫です。
「常温」は、この仮例の商品で確認済みという設定です。実際には商品の保存条件に合わせます。紹介先の連絡先を無断でもらうのではなく、まず相手に資料を渡してよいかを確かめる依頼にしています。
二人に分けなければならない、という話ではありません。同じ人に両方を相談できる場合もあります。ただ、味を検討してもらう相談と、売場へつないでもらう相談を分ければ、その人がどちらを引き受けやすいかも話しやすくなります。
紹介がなかった理由を、一つに決めない
依頼を具体的にしても、紹介が生まれるとは限りません。それでも、返ってきた話によって次に直す場所は変えられます。
「合いそうな店を知らない」なら、その人に説明を足し続けるより、別の接点を探す段階です。「紹介したいけれど、何を渡せばいいか分からない」なら、商品概要が足りない。「資料は届いたが、取引条件が合わなかった」なら、紹介者を替えるだけでは解消しない問題かもしれません。
瓶詰めの仮例なら、商品写真と用途に加え、保存条件、納品単位、賞味期限、相談窓口など、店側が検討するための情報を一枚にそろえる。その内容は自社の実条件で確認し、相手に説明を代行してもらいすぎないようにします。渡す資料の役割は、熱意を増幅することより、次の人が検討を始められる状態をつくることです。
記録も、最初から大きな仕組みにする必要はありません。一件について「何を相談したか」「どこまで届いたか」「先方が何を確かめたがったか」を残す。返信がない場合は理由不明のままにし、関心がないとも、説明が悪いとも決めつけない。少数の紹介から、市場全体の反応は分かりません。
『急に売れ始めるにはワケがある』という書名は、大きな変化を期待させます。でも今回残ったのは、もっと小さな問いでした。あの人に、何を頼もうとしていたのか。商品を理解してくれたことへの感謝と、さらに紹介をお願いすることは分けて考えたい。相手の信用と手間を借りていると分かるだけでも、次の一言は変わりそうです。
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