【Case20:ペアーズの場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜

マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

関屋 裕希 Yuki Sekiya
1985年1月31日生まれ/福岡県福岡市出身
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com
2025年5月4日から6日までの3日間、マッチングアプリ「Pairs」を運営する株式会社エウレカは、東京・下北沢のBONUS TRACKにて、恋愛における“面倒ごと”をテーマにした体験型イベント「恋ってときどき面倒だよねギャラリー」を開催しました。

このイベントは、恋愛の中で誰もが感じる小さな“面倒”を可視化し、共感を呼び起こすことを目的としています。会場は「面倒ウォール」「リアル面倒オブジェ」「面倒フォトコーナー」「みんなの面倒ウォール」の4つのエリアに分かれ、恋愛にまつわる“あるある”なエピソードや心の声を展示。来場者が自身の体験を共有できる参加型の仕掛けも用意され、SNSを通じた話題化も期待されています。
この取り組みは、恋愛や婚活に対する関心を自然に喚起し、若年層への訴求力を高めるマーケティング施策として注目されています。

「面倒くさい恋愛」に共感するイベント?
──関屋さん、今回のPairsのイベント、一見すると「恋愛の面倒さ」をフィーチャーしていて、少し意外な切り口ですよね。
関屋:そうですね、一般的な恋愛系のイベントって、「恋は素敵!」「出会いって最高!」というポジティブな空気でまとめることが多いんです。でも今回はあえて、「恋って面倒くさいよね」というネガティブな本音を前面に出している。これは非常に興味深い試みです。
ネガティブ感情を「代弁」してもらえる安心感
──恋愛に対して“面倒”と感じる人って、実は多いですよね。
関屋:その通りです。恋愛にはワクワクする面もあれば、不安・気疲れ・めんどうといったネガティブ感情もつきもの。Pairsのイベントは、そうした本音を代弁してくれているんです。
これが何を生むかというと、「わかってもらえた」という共感の効果です。カウンセリングでも、まず最初に“共感してもらえる”ことが、心を開く大きなきっかけになります。
共感されると、人は次の一歩を踏み出しやすくなる
──ネガティブをただ肯定するだけで終わっていないのが、面白いですね。
関屋: そうですね。人間って、ネガティブな気持ちをいったん受け止めてもらうと、前向きな気持ちが湧いてくるものなんです。たとえば「恋愛って疲れるな」と思っていたとしても、「そう思っていいんだよ」と肯定された瞬間、不思議と「でも、もう一回がんばってみようかな」と思えたりする。
自分の気持ちを否定せずに認めることで、自然と次のアクションにつながるんです。
「吐き出し」がモヤモヤを晴らす
──イベントでは、参加者が「恋愛のモヤモヤ」を書き出せる仕掛けもあったそうですね。
関屋:これはとてもいいですね。モヤモヤって、心の中に閉じ込めているとどんどん膨らむんです。でも、言葉にして書き出すことで、感情を“外に出す”ことができる。いわば感情のデトックスです。
これもカウンセリングと同じ原理です。「面倒だったけど、それを出したことでスッキリした」という感覚が、新たな恋への一歩を後押しするんですよ。
ネガティブを起点にしたポジティブアクション
──一見ネガティブな切り口なのに、結果的にポジティブな効果があるって、すごくおもしろいですね。
関屋:そうなんです。ネガティブな感情を否定せずに向き合うことで、人は自分を肯定できるようになります。そしてその先に、「じゃあ次はこうしてみよう」というポジティブな行動変容が生まれる。
「恋ってときどき面倒だよねギャラリー」は、まさにこの心理をうまく活用したマーケティングだと思います。
まとめ
今回のPairsの事例では、恋愛に対する“めんどくさい”という本音に共感し、安心感を与えることで、参加者が前向きな気持ちを取り戻すという心の動きを生み出していました。
ネガティブな感情を“否定しない”ことが、かえってポジティブなアクションを引き出す。
そんな心理効果を活かした施策は、今後のマーケティングにも活かせるヒントが満載です。
関屋さん、本日もありがとうございました!