【Case41:スタディメーターの場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜
マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。
PROFILE
関屋 裕希Yuki Sekiya
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com
新しい役割を任された日のことを思い出してみてください。研修で知識は学んだはずなのに、いざ現場に立つと何から手をつければいいのかわからない。仕事の本当の難しさは、教科書の外側にあることが多いですよね。
その「現場のリアル」を安全に体験できるサービスが登場しました。スタディメーター株式会社が2026年6月8日に無料公開したWebシミュレーションゲーム「プロジェクトマネージャーのヤバい1日」です。同社のAI研修システムの体験版で、ブラウザですぐにプレイでき、ユーザー登録も不要です。
舞台は、炎上したDXプロジェクトの立て直し。プレイヤーは後任のプロジェクトマネージャーとして、ユーザー部門の担当者・上司・部下という3人のAIキャラクターと、生成AIによる音声・テキストの対話を重ねながら状況を整理していきます。
ユニークなのは、明確なクリア条件がないこと。ギブアップした時点で評価とフィードバック、そして模範解答を受け取り、自分の判断を振り返る仕組みです。正解を当てるゲームではなく、自分の判断を見つめ直す装置なんですね。研修でネックになりがちなOJTの負担を軽減しながら、実践的なスキルを養える設計が気になりました。

「安心して失敗できる場」が学びを生む
──炎上プロジェクトの引き継ぎなんて、現実では絶対に経験したくない状況ですよね。
関屋:そうですよね(笑)。でも、だからこそ価値があるんです。心理的安全性とは、失敗しても罰せられたり評価を下げられたりしない、と感じられる状態のことです。人は失敗が怖い状況では、挑戦や試行錯誤を控えてしまいます。
シミュレーションなら、判断を間違えても誰にも迷惑がかかりません。失敗を許容できる安全な環境で、現実なら避けたいほど過酷な状況を経験できる。これがこの仕組みのいちばんの価値だと思います。
ギブアップは「負け」ではなく学びの起点
──クリア条件がなく、ギブアップが前提という設計も珍しいと思いました。
関屋:ここは経験学習の考え方とよく合っています。経験学習とは、「経験する→振り返る→教訓を言葉にする(概念化)→次に試す」というサイクルを回して学ぶ考え方です。経験はやりっぱなしだと学びになりにくくて、振り返りを挟むことで初めて教訓に変わるんですね。
ギブアップ後に評価とフィードバック、模範解答を受け取る仕組みは、まさにこの「振り返り」を組み込んだ形です。自分の判断と模範解答のズレを見ることで、次はどうするかという概念化まで進みやすくなります。
感情が動いた経験は忘れにくい
──講義で聞くのと、ゲームで体験するのとでは、何が違うんでしょうか?
関屋:シミュレーションやロールプレイのような体験型の学習では、感情が動くことが大きいんです。感情を伴った経験は、知識として聞いただけの情報よりも記憶に残りやすいと考えられています。AIキャラクターとのやり取りで焦りや緊張を感じること自体が、学習の一部なんですね。
疑似体験とはいえ、一度「修羅場をくぐった」記憶があると、現実の業務で似た状況に直面したときに引き出しやすい。過酷な状況への耐性や対応力を高める効果が期待できると思います。
研修は「知識習得型」から「実践型」へ
──こうした研修は、今後増えていくのでしょうか?
関屋:私は、ゲーム形式の研修が今後の主流になっていくと予測しています。ゲーミフィケーションとは、挑戦・フィードバック・達成感といったゲームの仕組みを、ゲーム以外の分野に応用する手法のことです。「もう一回やってみよう」と自分から取り組みたくなる点が、義務としての研修と大きく違います。
生成AIが相手役を務められるようになったことで、これまで先輩社員が付きっきりで担っていたOJTの負担も軽減できます。知識を教え込む「知識習得型」から、体験して振り返る「実践型」へ。研修のあり方が大きくシフトしていくタイミングだと思いますよ。
まとめ
失敗できない現実の代わりに、安心して失敗できる疑似の修羅場を用意する。「プロジェクトマネージャーのヤバい1日」は、心理的安全性と経験学習をゲームの形に落とし込んだ事例と言えそうです。
ギブアップを終わりではなく振り返りの起点にする設計は、研修に限らず参考になります。人材育成でも顧客体験でも、「失敗した瞬間に何を返すか」がその後の行動を左右するのかもしれません。
ブラウザで登録不要、というハードルの低さも見逃せないポイントでした。まずは体験してもらい、価値を感じた人に本格導入を検討してもらう。体験版そのものが、実践型研修へのシフトを後押しするタッチポイントになっていますね。
──関屋さん、本日もありがとうございました!
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