【Think CIVILITY】礼節は、会社の信頼にどうつながるのか?
「心理学」「脳科学」関連の書籍を通して、blogle編集部が気になった視点をお伝えするコーナーです。
感じのよい接客を受けたのに、店員どうしのやり取りを見て、少し気持ちが離れる。そんな場面を想像すると、会社の印象は、お客さんに向けた言葉だけでは決まらないのだと気づきます。広報や接客を考える人にとっても、見過ごせない話です。
今回の一冊は、クリスティーン・ポラス著、夏目大訳『Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』(東洋経済新報社、2019年)。出版社の公開情報と試し読みに加え、著者の研究から、礼節と会社への信頼のつながりを考えます。

結論を先に言ってしまうと、会社の信頼を考えるなら「お客さんにどう接するか」だけでなく、「お客さんの前で、人どうしがどう接しているか」も見たい。礼節は、個人の印象にとどまらず、周囲がその会社を判断する材料にもなるからです。
礼節を、個人のマナーだけで終わらせない
礼儀正しさと聞くと、敬語や挨拶の作法が浮かびます。でも本書が扱う範囲は、もう少し広いようです。公開目次を見ると、個人の振る舞いに加え、採用、コーチング、評価の仕組みまで扱っています。
全4部のうち、最後は無礼な扱いを受けた人の対処に充てられています。「周りにもっと親切に」と個人へ求めるだけの構成ではありません。礼節を保てる職場の条件と、そこで傷ついた人の側を両方見る。この範囲の広さが、本書を手に取る理由になります。
2017年のジョージタウン大学による原著紹介でも、小さく見える言葉や行動の影響は、個人だけでなくチームにも及ぶと説明されています。役職のある人に限らず、周囲との関わりを変える余地があるという著者の姿勢も紹介されています。
「感じがよい」は、「頼りになる」と対立しない
礼節を重んじる人は、好かれても仕事では頼りなく見えるのでしょうか。著者らが2015年に発表した研究は、その見方を考え直す材料になります。
バイオテクノロジー企業の研究開発部門31人を対象にした調査では、礼節があると見られた同僚ほど、仕事の助言を求められ、リーダーと見なされる傾向がありました。別の162人を対象とした実験では、礼節のある人は、温かさだけでなく能力も高く評価されました。
もちろん、小規模な一部門の調査から、礼節さえあれば業績が上がると結論づけることはできません。ここで持ち帰りたいのは、「感じのよさ」と「仕事への信頼」を、最初から別物にしなくてよい、という点です。
人への接し方は、会社全体の評価にも届く
マーケティングの視点で特に気になったのは、著者らの2010年の消費者研究です。調べているのは、顧客自身が失礼な扱いを受けた場合ではありません。従業員が別の従業員へ無礼に振る舞う場面を、顧客が目撃した場合です。
研究では、目撃した顧客の否定的な判断が、当事者だけでなく、ほかの従業員、会社全体、今後のその会社とのやり取りにまで広がりました。その過程には、無礼に振る舞った人への怒りと、出来事を繰り返し思い返すことが関わっていました。
この結果だけで、どの企業でも同じ変化が起きる、売上が何%下がる、とまでは言えません。それでも「自分には丁寧だったから、会社への印象は変わらない」とは限らない。顧客は、自分に向けられていない会話からも、その会社らしさを受け取るのです。
広告の言葉と、顧客が目にするやり取りをつなぐ
ここからは編集部の応用です。「人を大切にする会社」と伝えるとき、広告やサイトに何を書くかは考えても、その言葉を確かめる場面までは設計しきれないことがあります。
たとえば、企業の説明会。登壇者の話だけでなく、受付での引き継ぎや、質問に答えられないスタッフへ別の人が声をかける場面も、参加者には見えています。これは研究の実験場面ではなく、広報の仕事に引きつけた例です。
「裏側を見せないようにする」という話にはしたくありません。見えない場所なら構わない、となれば、本書から離れてしまいます。伝えたい価値を、普段の仕事の進め方でも支えられているか。広報担当者ひとりの言葉選びでは済まないからこそ、運営する人と一緒に考える価値があります。
次の説明会なら、確認を次の3場面に絞れます。これは効果が実証された施策一覧ではなく、編集部からの点検案です。
- 受付:担当者が答えに迷ったとき、誰に確認すればよいかが分かっているか。
- 質疑応答:その場で回答できない質問を、誰が持ち帰り、いつ返すかまで引き継げるか。
- 終了後:参加者アンケートで、説明内容とは別に、気になった対応ややり取りを具体的に聞けるか。
点検して問題が見つかったら、「接客態度をよくする」とまとめず、情報や担当の決め方に不足がなかったかまで戻る。どの場面で何が起きたかが分かれば、広告の表現を変えるのか、現場の進め方を変えるのかも考えやすくなります。
会社が大切にしていることは、大きく掲げた言葉だけで伝わるわけではありません。誰かが困ったときに、隣の人がどう応じるか。その短いやり取りにも、会社の紹介は含まれています。
参考・出典
書籍の紹介は出版社の公開情報・試し読みと原著紹介に基づき、全章の要約ではありません。研究結果は下記論文の公開要旨で確認した範囲を扱い、編集部の応用とは分けています。
- 東洋経済新報社『Think CIVILITY』(2019年):書誌、概要、目次、試し読み。
- Georgetown University, Master Civility in the Workplace(2017年):原著の構成と著者の説明。
- Porath, Gerbasi & Schorch, The effects of civility on advice, leadership, and performance(2015年):礼節と助言、リーダー評価、温かさ・能力評価に関する研究。
- Porath, MacInnis & Folkes, Witnessing Incivility among Employees(2010年):従業員間の無礼を目撃した顧客の企業評価に関する研究。
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