書籍紹介 執筆者:blogle編集部

【不合理だからすべてがうまくいく】なぜ、人は合理的に判断できないのか?

【不合理だからすべてがうまくいく】なぜ、人は合理的に判断できないのか?

「心理学」「脳科学」関連の書籍を読んで、blogle編集部が感じたことをお伝えしていくコーナーです。

今回は「私たちは本当に合理的に判断しているのか?」というテーマでお話したいと思います。

このテーマは【『不合理だからすべてがうまくいく』著者:ダン・アリエリー】に書かれている内容からインスピレーションを受けました。

【不合理だからすべてがうまくいく】なぜ、人は合理的に判断できないのか?の図版

今回お伝えしたい結論を先に言ってしまうと

「人は、思っているほど合理的に判断していない」
「しかしその不合理さには、はっきりとしたパターンがある」

ということです。

私たちは、自分の判断は論理的で、
感情や状況に左右されていないと思いがちです。
価格を比較し、条件を検討し、納得したうえで選んでいる——
少なくとも、そう感じています。

けれど本書は、その前提をやさしく、しかしはっきりと覆します。

人は、いつも同じような場面で、
同じように間違え、同じように迷い、
同じように不合理な選択をしている。

そして重要なのは
その不合理さが「気まぐれ」や「弱さ」ではなく、
誰にでも共通する、予測可能な行動パターンだという点です。

今回ご紹介する『不合理だからすべてがうまくいく』は、
人間のそんな理屈通りにいかない判断を
行動経済学の視点からわかりやすく解き明かしてくれる一冊です。

不合理とは何か

「不合理(ふごうり)」とは、道理や理屈に合わないこと、およびその状態を指す言葉です。

行動経済学では、人が自分の利益を最大化する合理的な判断から系統的にずれる現象を「不合理」と呼びます。

このずれは気まぐれや個人の弱さではなく、条件がそろえば誰にでも同じように起こる、再現性のあるパターンだと考えられています。

人はなぜ、いつも不合理な選択をしてしまうのか?

人が不合理な選択をするのは判断力が低いからではなく、比較対象・提示のされ方・そのときの感情といった状況の要因に思考が影響を受けるからです。

私たちは普段、自分の判断は理性的で、状況をよく考えた結果だと思っています。
価格を比べ、条件を検討し、納得したうえで選んでいる―少なくとも、そう感じています。

しかしダン・アリエリーは、本書の中でこう問いかけます。
「本当に、人はそんなに合理的だろうか?」と。

たとえば「無料」という言葉に弱くなったり、
比較対象が変わるだけで評価が大きく揺れたり。
私たちは、自分でも気づかないうちに、感情や状況に強く影響されています。

重要なのは、こうした不合理な行動がその場の気分や性格の問題ではないという点です。
人は、特定の条件がそろうと、驚くほど似たような判断ミスを繰り返します。

つまり、不合理な選択は「偶然」ではなく、
人間の思考に組み込まれたクセのようなものなのです。

本書が面白いのは、人間を「理屈が通らない存在」と切り捨てるのではなく、
不合理さにも一定のパターンがあることを示している点にあります。

その前提に立つことで、
私たちは自分の判断を責めるのではなく、
「なぜそう選んでしまったのか」を冷静に見つめ直せるようになるのです。

不合理な行動には、はっきりした法則がある

不合理な行動は無秩序に起こるのではなく、同じ条件がそろうと多くの人が同じ方向に判断を誤るという規則性を持ちます。規則性があるからこそ、事前に予測して備えることができます。

人は感情的で気まぐれな存在。
そう思われがちですが、ダン・アリエリーが示したのは、
不合理な行動ほど、実は予測しやすいという事実です。

私たちは同じような状況に置かれると、
驚くほど似た判断をし、似た失敗を繰り返します。
その意味で人間の不合理さは、ランダムではありません。

アリエリーはこれを
「予測可能な不合理性(Predictably Irrational)」
と呼びました。

たとえば、比較対象がひとつ増えただけで、
選択が大きく変わることがあります。
価格や条件そのものが変わっていなくても、
比べ方が変わるだけで判断が歪むのです。

また、一度決めたことを正当化しようとしたり、
損を避けるために非合理な行動を取ったりするのも、
多くの人に共通するパターンです。

こうした行動は、
「その人がダメだから起きる」のではありません。
人間の脳の仕組みとして、自然に起きてしまう反応なのです。

本書の重要なポイントは、
不合理さを否定するのではなく、
「人はそういうものだ」と理解することにあります。

その前提に立てば、
自分や他人の判断を過度に責める必要はなくなります。
むしろ、「どうすれば不合理な影響を減らせるか」を
考える余地が生まれてくるのです。

私たちの判断を狂わせる身近な心理メカニズム

不合理な行動には法則がある。
では、その正体は何なのでしょうか。

ダン・アリエリーは本書の中で、
私たちの判断を簡単に狂わせてしまう、いくつかの身近な心理メカニズムを紹介しています。

相対評価に引きずられる

人は物事を「それ単体」で評価するのが苦手です。
多くの場合、周りにある別の選択肢との比較で価値を判断します。

たとえば価格や性能がほぼ同じ商品でも、
少しだけ条件の違う比較用の選択肢が加わると、
急に一方が魅力的に見えてしまう。

これは理屈ではなく、
比較そのものが判断基準になってしまうために起こる現象です。

「無料」に弱くなる

もうひとつ象徴的なのが「無料」という言葉の力です。
損をしないどころか、得をするはずのない状況でも、
「無料」と聞くだけで冷静さを失ってしまう。

アリエリーは、
無料になることで感情が一気に動き、リスク評価が甘くなる
と指摘しています。

本来なら必要ないものでも、
「タダなら」と手に取ってしまう経験は、誰にでもあるはずです。

感情が判断を先回りする

私たちは、判断する前に感情が動き、
あとから理由をつくっていることが少なくありません。

「なんとなく良さそう」
「嫌な感じがする」

こうした直感が、
合理的な判断をしたつもりの選択を左右しています。

不合理さの正体は、
理性が弱いからではなく、感情が先に走るからなのです。

これらの心理メカニズムは、
特別な場面ではなく、日常のあらゆる選択で働いています。

だからこそ、不合理な選択は誰にでも起こる。
そして、そこに気づくことが、
よりよい判断への第一歩になるのです。

不合理さを知ることが、よりよい選択につながる

不合理さは意志の力で克服できるものではありませんが、どの条件で判断が歪むかを事前に知っておけば、仕組みによって避けられます

人は、思っているほど合理的には判断していません。
けれど、それは欠点ではなく、人間の自然な性質です。

大切なのは、不合理さをなくそうとすることではなく、
「判断は簡単に歪むものだ」と知ったうえで選ぶこと。

比較や感情に引きずられていないか。
一度立ち止まって問い直すだけで、選択は少し落ち着いたものになります。

『不合理だからすべてがうまくいく』は、
人間の弱さを責めるのではなく、
その前提に立って、よりよい判断をするための視点を与えてくれる一冊です。

blogle視点
明日から使える、マーケティングのヒント
本から得た「不合理の効用(手間や愛着が価値を生む)」の視点を、企業のコミュニケーション課題にどう活かすか。ここからは、ブログルらしく仕事の話にひきつけて考えます。

あえての「ひと手間」が、愛着を深めることがある

本書が面白いのは、人間の不合理さを欠点ではなく、時に満足を生む効用として捉えているところでした。効率だけを追えば無駄に見える「ひと手間」や「時間」が、実は完成した体験への愛着を深める——この視点は、便利さや時短ばかりが正義に見える今のサービス設計に、静かな問い直しを投げかけているように思います。

たとえば、お客さま自身が少し関わって仕上げる体験——組み立て家具、自分で配合を選ぶコスメ、名入れや刻印のサービス。人は、自分が手をかけたものほど価値を高く感じやすいと言われます(行動経済学でいう「IKEA効果」)。だからこそ、すべてを「ワンタップで完結」に寄せるのではなく、体験の一部にあえてお客さまの手を残すという切り口が考えられます。手間はコストではなく、思い入れの入り口になり得るのだと思います。

便利さを削るのではなく、「自分が関わった」という実感を残すこと。その小さな手間が、他では代えがたい愛着に変わることがあるのかもしれません。

「儀式」をつくると、体験は記憶に残りやすくなる

本書ではもう一つ、繰り返される所作や順序——いわば「儀式」が、体験の満足度を左右するという視点も語られていました。同じ商品でも、決まった開け方や飲み方、手順があるだけで、味わいや特別感が増す。これは、ブランド体験の設計に活かせる切り口だと思います。

たとえば飲食やギフトなら、開封の順番や「まずこう味わってください」という一文を添えるだけで、体験が“ただの消費”から“記憶に残る時間”に変わります。オンラインサービスでも、初回ログイン時のちょっとした演出や、達成時の決まった合図が、続けたくなる小さな儀式になります。効率化で削られがちなこうした所作を、あえてブランドの体験として設計するという発想です。ブランドが人の記憶に残る接点を持つこと(Byron Sharpのいう記憶の中での想起されやすさ)は、長く選ばれ続ける土台になります。

効率の裏で削られがちな「手間」や「儀式」を、あえて愛着の装置として残す。その小さなひと手間が、記憶に残る時間をつくっていくのだと思います。

参考文献

ダン・アリエリー著、櫻井祐子訳『不合理だからすべてがうまくいく——行動経済学で「人を動かす」』早川書房、2010年11月25日刊。

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