【Case12:OfferBoxの場合】マケシリ〜マーケティング事例に隠された心理効果を知ろう〜

マケシリでは、最近ちょっと気になったマーケティング事例を独断と偏見でピックアップ!
弊社顧問で心理学博士の関屋 裕希さんになぜ気になっちゃうのかを心理学の観点から紐解いていただきます。

関屋 裕希 Yuki Sekiya
1985年1月31日生まれ/福岡県福岡市出身
せきや・ゆき/臨床心理士。公認心理師。博士(心理学)。東京大学大学院医学系研究科 デジタルメンタルヘルス講座 特任研究員。専門は職場のメンタルヘルス。業種や企業規模を問わず、メンタルヘルス対策・制度の設計、組織開発・組織活性化ワークショップ、経営層、管理職、従業員、それぞれの層に向けたメンタルヘルスに関する講演を行う。近年は、心理学の知見を活かして理念浸透や組織変革のためのインナー・コミュニケーションデザインや制度設計にも携わる。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。
ホームページ:https://www.sekiyayuki.com

就職活動も早期化してすでに内定を持っている就活生もいるのではないでしょうか。

コロナウイルスの影響や早期化によりガクチカの経験不足など多くの就活生が悩みをもって就活に望んでいると思います。

そのような就活生の気持ちが上向くように新卒ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox(オファーボックス)」を運営する株式会社i-plugが「口角が上がる広告」を掲載しています。

「口角が上がる広告」は、関西大学文学部総合人文学科、熊谷学而准教授の監修のもと、「口角が上がることで気持ちが前向きになる」という行動心理と、「不安・ストレス緩和に繋がるかわいい言葉」という音声学の知見をかけ合わせ、「口に出すだけで前向きになる言葉」を考案したとの事です。

「口角が上がることで気持ちが前向きになる」という行動心理学と、「不安・ストレス緩和に繋がるかわいい言葉」という音声学の知見をかけ合わせ、「口に出すだけで前向きになる言葉」を100語以上考案し、関西大学文学部総合人文学科、熊谷学而准教授監修のもと、最終候補を選定し、最終候補の中から、実際に関西大学の学生に「声に出した時、もっとも『前向きになる』言葉」を選んでもらうアンケートを実施し、「みにみにぴにぴに」という言葉に決定しました。

<口に出すだけで前向きになる言葉の条件>

①口角が上がる、母音が「い」の言葉で構成されている
②語呂・語感が良く、思わず口に出したくなる言葉になっている
③音象徴の視点で、「かわいい」と感じる要素、ポジティブな要素がある
ー繰り返しになっている言葉(今回は「みに」と「ぴに」の繰り返し)
ーパ行(無声音・両唇音)、マ行(両唇音・共鳴音)、ラ行(共鳴音)がつく言葉
・無声音:子音がp、t、kといった声帯を震わせずに発音できる高周波数の音
・両唇音:上下の唇を使って発音する音
・共鳴音:呼気の流れが妨げられない音

口に出すと口角が上がるワードを使って就活生を前向きな気持ちにするって面白い視点ですよね!
心理学的にも口角が上がる事で前向きな気持ちになる。というのは心理学的にはありうることなんでしょうか?

―心理学では王道なんですが、「悲しいから泣くのか」、「泣くから悲しいのか」という議論があります。今回の口角が上がる→気分が前向きになる。は、身体反応行動がきっかけになって感情体験を引き起こしていますね。

関屋さんはどちらの説をおしていらっしゃるんですか?

ー2つの学説が検討され学説で戦った結果、どちらもあるという結果になってます。
口角が上がることで気持ちが前向きになる。というのは心理学的にも実証されているのです。

どちら「悲しいから泣く」と「泣くから悲しい」両方ともあり得るというのは私も知りませんでしたし、知らない方も多いのかなと思います!

―ちなみに、学説では抹消起源説(ジェームズ=ランゲ説)と中枢起源説(キャノン=バード説)といわれてます。
これまではこの2つの説で争っていましたが、今はどちらのルートもあるね。という結論になってます。

感情喚起の機序-抹消起源説(ジェームズ=ランゲ説)と中枢起源説(キャノン=バード説)

抹消起源説(ジェームズ=ランゲ説)
刺激・状況によって喚起された身体反応が、感情体験を引き起こすとする。ジェームズは、「悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ」と説明している。脳内では、対象を感覚皮質によって知覚すると、運動皮質にその情報が伝わり身体反応が生じる過程が想定されている。そのような身体の変化を体験することが感情体験である、ということになる。(p.176)
『公認心理師必携テキスト』引用

中枢起源説(キャノン=バード説)
脳中枢で生じるプロセスが抹消反応に先行するとする。ジェームズ=ランゲ説に対して、「悲しいから泣く」と説明される。脳内では、外界からの刺激はまず視床に送られる。視床は大脳の感覚皮質に情報を送る一方、視床下部にも情報を送る。大脳に送られた情報・刺激パターンによって感情体験の内容・種類が決定され、視床下部に送られた情報によって身体反応が生じることになる。(p.176-177)
『公認心理師必携テキスト』引用

初めて聞きました!
ジェームズさんとキャノンさんの理論なんですね!

私はどちらかというと、「悲しいから泣く」の方かなと思ってましたが、今回の広告のように身体反応が起因で感情が変化することも、考えてみるとあるよな。と思いました。

―早稲田大学の研究グループは以下のような研究も行っています。
泣くから悲しいを証明したという研究です。

早稲田大学理工学術院 (基幹理工学部)渡邊克巳(わたなべかつみ)教授らを含む研究グループは、人が話している時に音声に感情表現を与えることのできるデジタルプラットフォーム(Da Amazing Voice Inflection Device: DAVID)を開発しました。さらに、このプラットフォームを用いて、被験者が音読している時に、「楽しい」「悲しい」「怖がっている」ように聞こえる感情フィルタをかけながら自身の声を聞かせると、自分の声の変化に気づかない時でも、自身の感情を変化させることが可能であることを明らかにしました。
「「泣くから悲しい?」自分の声を聞くと気持ちも変わる 意識下の音声操作によって自己感情を変調することに成功、気分障害の治療への活用も(引用:https://www.waseda.jp/inst/research/news/68575  )」

普段、自分の感情変化がどのように起こっているのかを客観的に考えたことがなかったので改めて感情に訴えるということに関して考えさせられました。

・広告を見て身体反応を経由して感情を変える広告(今回の事例)

・広告を見るときに感じている感情によって受け止め方が変わる広告(Case11の事例)
の2軸の広告が考えられそうです。

ターゲットや広告に触れる場面に合わせてどのようなアプローチを選択すれば、感情変化を起こすことができるのかを考えることで広告の幅が広がりそうです!

今後のマーケティングに活かしていきたいと思います!

関屋さん、本日もありがとうございました!

share

  • facebookでシェア
  • Twitterでシェア